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小田急線祖師ヶ谷大蔵駅前の矯正歯科専門医院です

Tel: 03-5429-0206 / E-mail: takahashikyousei@gmail.com

〒157-0072 東京都世田谷区祖師谷3-32-5(駅より徒歩1分)

麺がすすれない人のためにSlurping noodles


ラーメンがすすれない方へのアドバイス


高橋矯正歯科クリニック(東京・世田谷) 高橋 治、高橋未哉子

蕎麦やラーメンなど、「麺類をすすって食べることができない人が増えているのではないか」というテレビ局からの問合せを受け、以前取材協力をしたことがあります。私たちへの使命は「ラーメンがすすれるようにする練習法を開発してほしい」ということでした。

私たちにとって、麺類がすすれない人を訓練によりすすれるようにするという依頼は初めてでしたが、診療室で実施している「口腔筋機能療法(MFT)」という口の周りの筋肉の訓練法の知識を生かして、オリジナルの練習法を開発してみました。当院高橋未哉子のコメントが放映されたことに伴い、麺をすすれない場合の対処法に関するお問い合わせをいただく機会がありましたので、下記のような簡単なまとめをつくりました。

TVなどをご覧になり、麺類をすすって食べることに関して当院にお問い合わせいただく場合には、恐れ入りますが、まずこのページをご一読下さいますようお願いいたします。

なお、当院は矯正歯科の専門医院ですので、「ラーメンがすすれるようにする教室」、「麺すすり外来」などのプログラムを行っておりません。

また、口腔筋機能療法(MFT)に関する詳しい情報をお求めの方は、下記の参考文献をご参照ください。
※参考文献:
・口腔筋機能療法 MFTの実際 上巻. MFTの基礎と臨床例. 高橋 治, 高橋未哉子(著). 東京: クインテッセンス出版, 2012.
・口腔筋機能療法 MFTの実際 下巻. 口腔機能の診査とレッスンの進めかた. 高橋未哉子, 高橋 治(著). 東京: クインテッセンス出版, 2012.
・ したのくせ. MFT(口腔筋機能療法)ワークブック. 高橋未哉子, 高橋 治(著). 東京: クインテッセンス出版, 2012.
・MFT入門. 初歩から学ぶ口腔筋機能療法. 山口秀晴, 大野粛英, 嘉ノ海龍三(監修). 東京: わかば出版, 2007.
・MFT臨床. 指導力アップ・アドバンス編. 山口秀晴, 大野粛英, 高橋 治, 橋本律子(監修). 東京: わかば出版, 2012
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すするという動作

日本では、蕎麦、ラーメン、うどんなどの麺類をすすって食べる習慣があります。すする(啜る)ことによって麺類をよりおいしく味わえるという要素が確かにあります。
ところが、食物をすすって食べる習慣を持たない文化圏は多く、音を立ててスープやパスタ(スパゲティー)などをすすって食べる行為がマナー違反となる場合もあります。
すするという動作は、「空気と共に吸い込んだ液体や食べ物を口腔内にとどめつつ、空気だけを気管に送り込む」ことです。この時、口腔内における液体や食べ物と空気との分離作業が上手にできないと、気管に液体や食べものが入ってしまい、むせてしまいます。
むせることにより異物が気管や肺に入ることが防げるので、むせることは体の健康を守るための重要な反射です。このむせる反射が低下している場合には、「窒息」や「誤嚥性肺炎」を引き起こしてしまうことがあります。
乳幼児、高齢者の方や神経筋機構の障がいをお持ちの方では、気管や肺に異物が入らないように食べることを最優先にすべきですので、無理にすすって食べることを目指してはいけません。

どうして麺類をすすれないのか

私たちが、麺類をすすれない方々を何人か観察したところ、「これまですすって食べたことがないのでやり方がわからない」という方と、「呼吸や咀嚼の機能が不十分なのですすることが難しい」という方の2つのパターンがあると感じました。
まず、「これまですすって食べたことがないのでやり方がわからない」というパターンです。私たちの知り合いの欧米人でも同じ方がいらっしゃいました。すなわち文化的に「すする」という動作がないのでやりかたに慣れていないということです。日本のご家庭でも、親が「すすって食べる」ことを日常的に行わない場合、お子さんはすすって食べたことがないまま成長するかもしれません。また、すすって食べること自体に抵抗感があり、パスタやスープと同様に蕎麦やラーメンも音を立てずに食べる習慣をお持ちで、「すする動作」に慣れていない方もいらっしゃると思います。このような方々は、機能の問題がないので、コツさえつかめばすぐにすすって食べることができるようになります。コツのつかみ方は後に述べる練習法をご覧ください。
次に、「呼吸や咀嚼の機能が不十分なのですすることが難しい」というパターンです。特に、鼻呼吸と口呼吸が使い分けられない人は麺類をすすることが難しいと思います。この場合には、呼吸や咀嚼に関連する筋肉の機能訓練が必要なことがあります。今回テレビ局からお声をかけていただいた理由は、私たちが行っている「口腔筋機能療法」が「ラーメンをすすれない」という問題の解決に役立つのではないかと思っていただいたからだそうです。(口腔筋機能療法は主に矯正歯科や小児歯科などの診療室において歯科医師および歯科衛生士の指導のもとに行われており、口腔機能を改善し、歯列に加わる筋圧を適正化するための訓練法です。)
機能的な理由で麺類をすすって食べられない方に共通して認められる問題は「鼻呼吸と口呼吸の使い分けが難しい」ということです。アレルギーやアデノイドなどで鼻呼吸が阻害されると、日常的に口からも呼吸をするようになりますが、この際、口だけで呼吸するというより、口を半開きにして鼻と口の両方で呼吸をするというパターンが認められることが多いです。このような方は、鼻詰まりが解消されても、鼻だけで息をする感覚が養われていない場合があり、鼻呼吸と口呼吸の使い分けが上手でないことが多いのです。
ものをすするときには、口をすぼめて開けた状態で、口からだけ息を吸うことが必要です。(鼻をつまんだままでも麺がすすれるのは口からだけ息を吸うということが容易だからです。)鼻呼吸と口呼吸の使い分けに慣れていない方は、口からだけ息を吸おうとしても、口だけでなく鼻からも空気が入ってきてしまい、苦しくなってしまいます。
鼻呼吸と口呼吸の使い分けが不十分な場合の改善法としては、「口を半開きにしたまま、鼻だけで息をしたり口だけで息をしたりする」という練習を行うと良いでしょう。ここで重要なのは、「口を半開きにしたまま」という点です。試しに、鼻をつまんだまま口だけで息をしてみて下さい。ほとんどの方は簡単にできると思います。また、口唇を閉じたまま鼻だけで息をしてみて下さい。鼻詰まりが強くなければ、鼻だけで息をすることは比較的容易なのではないでしょうか。次に、鼻をつままずに、口を半開きにしたまま、口だけで息をしてみて下さい。いかがでしょうか?この時、戸惑いを感じてしまう方、あるいは鼻からも息が入ってきてしまう方は、まさしく鼻呼吸と口呼吸の使い分けに慣れていない状態です。
口だけで息をしている時には、舌の奥の部分が下がった状態であることに対し、鼻だけで息をしている時には、舌の奥の部分は軟口蓋および口蓋垂(のどちんこ)と接した状態になります。鏡でご自身の舌とのどを観察しながら、口を半開きにしたまま鼻だけあるいは口だけで息をする練習すると良くわかると思います。
口を半開きにしたまま、鼻だけで息をしたり口だけで息をしたりする練習を通じ、鼻や口を通る空気の流れと、その際の舌の奥と軟口蓋の動きを感じることが、鼻呼吸と口呼吸の使い分けの訓練に役立ちます。
時には、舌根部(舌奥)または軟口蓋の機能自体が低下している方々もいらっしゃいます。その場合には「ガラガラうがい」を毎日行うと機能の改善に役立ちます。
そして鼻呼吸と口呼吸の使い分け」ができるようになれば、麺類をすすって食べられる事に一歩近づきます。

<麺類をすすって食べるための練習法>

繰り返しになりますが、すするという行為は空気と一緒に液体や食べものが気管や肺に入る要因となり、「窒息」や「誤嚥」を引き起こす可能性があるため十分にご注意下さい。また、鼻でうまく息ができない場合には、必要に応じてその改善を先に行うことをお勧めします。

鼻水がある場合には、鼻を一度軽くかむなどして鼻通りを良くしてください。

なお、機能的な問題がほとんどなく、すすることに慣れていない人はこれからご紹介する練習を通じて、すぐにコツがつかめるようになると思います。

ステップ1:「エアすすり」
※口唇ををすぼめて、鋭く口から息を吸ってから、鼻で息を吐く訓練です。
・口唇は麺類をすするときの形をイメージして「オ」を発音するときのような形にすぼめます。
・口唇のところから音がするように鋭く息を吸ってから息を止めます。この時の音は口笛の音ではなく、「シュッ」という空気の入ってくる音です。そしてすぐに息をいったん止めます。(息を止めると舌の奥の部分が持ち上がって軟口蓋および口蓋垂(のどちんこ)と接します。)
・そして息を鼻から吐きます。この時に、鼻だけから息を吐くことを意識してください。口からも息を吐いてしまうのは間違いです。
・どうしても口からも息を吐いてしまう場合には、この練習に先だって、先程ご紹介した、「口を半開きにしたままで鼻だけまたは口だけで息をする」という練習をしてみて下さい。
(なお私たちはこの訓練のことを開発当初は「呼吸訓練」もしくは「空気すすり」などと称していました。放映に際し「エアすすり」という絶妙なネーミングをお与え下さったフジテレビ関係者の方に心からの賛辞をお贈りいたします。まことにありがとうございました。)

ステップ2:「水すすり」
※コップから空気と一緒に水をすすり、空気だけを肺に取り入れて、水を口にとどめる練習です。
・コップに水を8分目くらい入れて手で持ちます。
・口唇をすぼめ、コップの縁に口唇をつけます。
・水面が口唇とわずかに離れているところまでコップを傾けます。口唇と水面が完全に接してしまうとうまく練習ができません。(熱いお茶をすするときの感じです。)
・エアすすりと同じ要領で、口唇のところから音がするように鋭く息を吸い、空気と一緒に水面から水を口に吸い込み、すぐに息を止めます。水は口の前の方とどめて、空気だけが肺に入れば成功です。
・むせてしまう場合には、エアすすりをもう少し練習して下さい。また、最初は水をたくさん吸おうとしないで、空気を吸うついでに水面からわずかに口の中に水が入るくらいでOKです。
・誤嚥を防ぐためにくれぐれも無理はなさらないで下さい。
・水を口の中に吸い込んだら、一旦息を止めて、その水を飲み込んでから、鼻で息を吐きます。
・少し慣れてきたら、吸い込んだ口の中の水を飲み込まないで、鼻でゆっくり息を吐いたり吸ったり(2~3回)してから、一旦息を止めて、水を落ち着いて飲み込んでください。さらに余裕ができてきたら、鼻で息をしながら口の中の水を食べ物だと思って何回か咀嚼してから飲み込んでみて下さい。
・ポイントは、口から空気と一緒に水を取り入れた後、鼻で息をすることです。口で息をしてしまうと水が口から出てきてしまいます。
・ここまでできれば麺類をすすって食べることができるまであと一歩です。

ステップ3:「麺すすり」
※空気と一緒に麺とスープをすすり、空気だけを肺に取り入れて、麺とスープを口にとどめます。
・水すすりが簡単にできない場合、むせやすい場合、呼吸・嚥下機能が低下している方の場合などは誤嚥の可能性があるので絶対に行わないで下さい。
・水すすりがスムースにできるようになったらいよいよ麺がすすれるか試してみて下さい。
・最初からあまり熱い食材で行うと危険ですので、適度に冷ましてください。
・麺が長い場合には、一度ではすすりきれないかもしれません。その場合、一度すすったら、上下の前歯または前歯と口唇とで麺を切っても良いです。
・あらかじめ麺をキッチン鋏などで短めに切って練習しても良いです。
・長い麺を何回かに分けてすする場合には、一度すすった後一瞬息を止めて、鼻から息を吐き、続けて口からすするようにすれば上手にできるようになると思います。
・麺とスープが口に入ったら、唇を軽く閉じ、鼻で呼吸をしながら、ご賞味ください。
・スープとからみあった麺を空気と一緒に口から吸い込み、味と共に香りを含んだ空気を鼻で感じることによって、よりおいしくラーメンやお蕎麦を召し上がることができると思います。
・なお、一気に麺をすすってほとんど噛まないで飲み込むことが「粋」である場合もあります。いわゆる「蕎麦は喉で食え」や、「うどんはのどごしが大事」という感覚です。この場合は咀嚼時の鼻呼吸をする必要がなく、嚥下後すぐに息を口から吐いても大丈夫です。
・麺の食べ方は、文化や個人によって様々です。時と場合に応じて楽しくおいしく召し上がってください。

皆様のお役にたてれば幸いです。

当ページはリンクフリーですが、無断転載はご遠慮ください。

著作権所有:高橋矯正歯科クリニック(世田谷区) 高橋 治
(本稿の初出掲載は2009年12月3日(木)です。)


蛇足

私たちは、「すする」という行為に関し、特にマナーの面で、「日本の常識は世界の非常識」という面が多々あるということを認識しています。
すする音を非常に不快なものとしてとらえる文化圏に属する方々もいらっしゃいますので、時と場合により麺類やスープ類(汁物)の召し上がり方を使い分けることが必要なのではないかと思います。ちなみに私たちは普段はラーメンや蕎麦をすすって食べていますが、外国人と会食をする時には決してすすりません。
最近では、蕎麦やラーメンをすすって食べることは、日本人にとっての「文化」であり、「粋」な行為であることを理解している外国人もいらっしゃり、果敢にお蕎麦やそうめんをすすって食べることで、日本文化を体験しようと思っている方々も目にします。
しかしこの方々ですら、すすり食べに関しては本来は抵抗感をお持ちの人がいらっしゃるのではないかと私たちは思います。それは、幼少の時から家庭で母親や家族から、スープは音を立ててすすってはいけませんとしつけられるのがあたりまえであるという文化圏もあるからです。
また、私たちは、食物をすするかどうかということも時には重要ですが、「口唇を軽く閉じて鼻呼吸をしながらしっかりと奥歯で咀嚼する」ことこそが、食物の味と香りを堪能するための要件であると思っています。
すすって食べることがなかなかできない方でも、一口をお口に入れたら、口唇を軽く閉じて、鼻呼吸をしながらゆっくりと奥歯で咀嚼し、食物の味と香りを舌と鼻で十分に感じた後、落ち着いて嚥下することを心がけることで、おいしさを十分に堪能できると私たちは確信しています。